コクリコ坂から

 率直に言ってよい映画だと思った。十分楽しいし、泣きそうにもなった。ただ、どうしても過去のジブリ映画と比較してしまいます。

 一番違うのは、子供がからみて面白いかどうかだと思います。今回の作品は小学生低学年ではつまらないシーンが続くこともあります。どちらかというと、私のようなおじさんがみて不覚にも泣きそうになる映画かとも思います。

 その他にも、映画タイトルに「の」が入っていないとか、音楽が武部さんだとか違うところがあります。

 過去から共通するところは、説明がなく話を進めていくところや、本職の声優以外を多く使っているところですね。でも、糸井重里(トトロ)や長島一茂(ポニョ)といったような素人の起用はなく、みな立派な俳優さんたちです。個人的には、あの棒読み感あふれるせりふはよいアクセントになっていたと思うので、少し残念。

 舞台は1963年5月の横浜です。一年半後に東京オリンピックを控え、日本全体が活気付いている頃だと思います。横浜という土地にはなじみはないのですが、当時の風景と思われるものが描かれていて、見たことないのに懐かしく思うのは不思議です。

 劇中に、制服のスカートのひだを寝押しするとか、ご飯をお釜で炊いてお櫃に移してから食べるとか、今では忘れ去られた光景が出てくるのも楽しいです。監督の吾郎さんがご存知とは思えないのですが、脚本の駿さんならリアルにご存知なのでしょう。

 そして何よりすばらしいのが、主人公たちの通う高校でのシーンです。最近の高校がどんな感じなのか知らないのですが、多くの生徒が高校での生活に積極的に関与し、青春を謳歌するシーンが活き活きと描かれていると思います。何かあれば皆で歌を唄うなど古臭いのかもしれませんが、かえって新鮮ではと思います。

 この映画はストーリー自体は良くあるものかもしれません。あらすじを140文字にまとめてしまえば「安物のメロドラマみたい」にしかならないでしょう。でも、映画全体の描き方や、登場人物の何気ない所作なども含めた映画全体としてはとても楽しめる良い映画だと思いました。

(2011年8月 MOVIX京都)