大人は泣かないと思っていた(寺地はるな/集英社)

大人は泣かないと思っていた

大人は泣かないと思っていた

 農協に務める時田を軸にした連作短編、年代も性格も様々な女性がそれぞれ登場する。お話の舞台はやや田舎で、女は男に従え!的な雰囲気のある中、逆らいながらも居場所を見つけていく感じがいい。男が、女が、というのはあまり好きではないけど、それを逆手にとって書く著者の小説には惹かれる。

水槽の中(畑野智美/角川書店)

水槽の中

水槽の中

 高二の遥は、同じクラスのアルトのことがなぜか気になりだす。アルトは、考古学部の地味な男の子で、あこがれの先輩とは全くライプが違う。
 修学旅行、文化祭、初詣と、甘く切ない高二の一年を描く。桜並木の高校、近くに海や水族館と、少しのどか目の舞台設定が良く、こんな高校に通いたくなる。

この世界で君に逢いたい(藤岡陽子/光文社)

この世界で君に逢いたい

この世界で君に逢いたい

 院生の周二は、年上の彼女と与那国島を旅行で訪れ、花という名の美少女と出会い、不幸な事故で無くなった従妹のことを思い出す。その花が突然姿を消したところからお話が大きく動く。
 現代科学では説明のつかない力が働くので勘違いしてしまいそうだけど、人間として日々の生活に何が本当に必要なのかを考え直してしまう。

屍人荘の殺人(今村昌弘/東京創元社)

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

 映画研究会の合宿で行った山荘に事情により閉じ込められ、次々とメンバーが密室で殺される、そこにたまたま居合わせた名探偵とその助手、と本格ミステリの王道のような状況設定。殺人犯を見つけ出すことができるのか、また無事に外部に脱出できるのか。
 謎解きとしては、かなりきわどい内容だけど面白さが勝る。

一億円のさようなら(白石一文/徳間書店)

一億円のさようなら

一億円のさようなら

 20年間連れ添った妻は、巨額の遺産相続者だったことを知り驚く鉄平、渡された1億円を持って金沢で新生活を始めようとする。
 勤務先の権力抗争、子供たちとの距離感など、仕事、家庭、夫婦、そして新天地での生活が一気に動き出すスピード感が読んでいて楽しい。面白いけど、ふと我が身も振り返ってしまう。

公園へ行かないか? 火曜日に(柴崎友香/新潮社)

公園へ行かないか? 火曜日に

公園へ行かないか? 火曜日に

 著者が実際に参加した、各国から作家の集まる講座でアイオワはじめアメリカに滞在した3か月の出来事をもとにした短編集。出来事や行動を描き重ねることにより、様々な思いがそこに描かれる。小説というより著者の滞在日記を読んでる感じ、知らんけど。

風に恋う(額賀澪/文藝春秋)

風に恋う

風に恋う

 かつての名門吹奏楽部復活を目指す高校を舞台にした、まっすぐな青春小説。たるんだ部活を何とかしようとする1年生部員と、それを部長に指名する黄金時代のOB指導者。シンプルさゆえに読んでてぶれなく間違いなく面白い。
 人生にとって「部活」だけでいいのかという問いかけが全編に込められてるのが今風?